山高NOW 平成24年5月号

「進路の手引き」によせて

校長 吉村 烈

 金沢の旧市街、落ち着いたお城とおしゃれな街、そして目もさめるような緑に包まれて、金沢21世紀美術館が建っています。夕暮れ、その屋上を仰ぐと、一人の輝くブロンズ製の男が西の空を見上げ、雲を測っています。

 「無駄なことをしている」ようにも見えますが、「堂々と、自分の手持ちの物差しで無限の空に立ち向かっている」ようにも見えます。脚立まで出してきて、少しでも空に、雲に近づこうとしているこの男の愚直さが好ましくも思えます。

 作者が、どのようなつもりで、この作品を作ったのかはわかりません。でも僕は、金沢の街で輝くこの男に出会ったとき、「未来へ立ち向かうというのは、こういうことなんだろうな」と思ったのです。


ヤン・ファーブル 《雲を測る男》1999
金沢21世紀美術館蔵

 今、僕たちが耳にするのは、「変革」や「イノベーション」、そして「これまでとは違う」という言葉ばかりです。 「大学に行けば安心という時代は終わった」とも言われますし、マスコミの語る年金や、医療の問題は、「未来は明るくないのではないか」と思わせるものばかりです。

 でも、実は昔から(君たちの保護者の方が君たちぐらいの年のときもそうでした)「未来は大変なことになる」と言われていました。

 「大変なことになりそうだから、足を踏み出さずに今いる場所にじっとしている」ということはできません。やっぱり僕たちは、今自分の手元にある「いちばん長い物差し」を使って、自分で「未来はどのようになるのか」「自分の進む方向はどちらが正しいのか」を測りつつ、次の一歩を踏み出していくしかないのです。

 この『進路の手引』は、君たちに手渡すことのできる「いちばん長い物差し」です。一足先に「未来」に踏み出していった先輩たちの声、自分を測り、どこに行けるかを探るために先輩や、先生たちの積み重ねてくれた多くの資料。ぜひ活用してほしいと思います。

 未来に、「この辺でまぁいいや…」という場所はありません。最後まで妥協せず、自分の目標に向かって、進み続けてください。君たちの成功を祈ります。